映画「少年は残酷な弓を射る」-エズラ・ミラーの美しさよ。

望まない妊娠、望まれず生まれた子。
母と息子の溝は埋まることなく、衝撃の事件へと発展する。

Source: https://movies.yahoo.co.jp/

 

 

公開:2012年

製作国:イギリス

上映時間:112分

監督:リン・ラムジー

原作:ライオネル・シュライヴァー

出演:ティルダ・スウィントン
ジョン・C・ライリー
エズラ・ミラー ほか

原題:We Need to Talk About Kevin

 

 

※本記事にはネタバレ、結末が含まれています。

映画「少年は残酷な弓を射る」のネタバレあらすじ

エヴァはソファで目覚める。
食事は食べかけ、酒瓶に薬の容器、部屋の掃除もしていない。
家の外壁には、一面に赤いペンキがかけられていた。
道を歩いていると、すれ違う中年の女性に「ビッチ」と罵られ殴られる。
心配して声をかけた男性に、何でもないと言い立ち去った。

若い頃は、旅行ライターとして仕事も充実し、恋人とも幸せな日々を送っていた。
そんな時、軽はずみなセックスで妊娠。
世界中を飛び回っていたエヴァにとって、それは決して喜ばしいことではなかった。
やがて生まれた息子ケヴィンは、一日中泣き止まず彼女を疲弊させた。
息子の泣き声をかき消す道路工事の騒音に安らぎを得るほどだった。
しかし夫が抱くと不思議とケヴィンは大人しくなり、エヴァは益々ストレスを募らせる。
幼児になってもケヴィンは遊びにも反応せず、ただエヴァを睨みつけていた。
幼いケヴィンにエヴァは、つい「ケヴィンが来るまでママは幸せだった。」と口走るだった。

数年後、夫の一存で、一家は郊外の一戸建てへ引っ越す。
ケヴィンはエヴァに対しては反抗的だが、夫にだけは懐き、夫も息子に甘かった。
当てこすりのような悪質な行為も、夫は「子どものすることだから」と片付けた。
ある時、いまだおむつが取れないケヴィンが、わざとお漏らしをしたことでカッとなったエヴァは腕を骨折させてしまう。
すると、夫には母親を庇う殊勝な態度を見せ、エヴァに対しては罪悪感を逆手にわがままな要求をするのだった。
しかし骨折のおかげでおむつは取れた。
やがて娘が生まれる。
風邪をひき一時的に赤ちゃん返りしたケヴィンに、エヴァは嬉しくなり、「ロビン・フッド」を読み聞かせるが、すぐにまた反発し始めるのだった。

ケヴィンが15歳になっても、母と息子の間には依然壁があった。
歩み寄るエヴァに、見透かすように不敵に笑い時に辛辣な態度を取る。
ある時、娘が可愛がっていたモルモットがキッチンのディスポーザーに入れられていた。
エヴァは息子の仕業だと確信し、底知れない恐怖を感じる。
そして娘が片目を失明する大けがを負う事故に至ると、エヴァは夫に息子の犯行を訴えるが、夫は聞き入れず、カウンセリングを受けろと言うのだった。
妹の事故を見ていたはずのケヴィンだが、まったく悪びれる様子も同情もなく、夫が「義眼をからかうな」と言っても「妹は耐えるしかない」と言い放つ。

やがて夫はエヴァに離婚を切り出した。
そしてケヴィンの16歳の誕生日を目前にしたある日。学校から連絡を受けエヴァが駆けつけると、パトカーや救急車、大勢の人が押し寄せ騒ぎになっていた。
体育館のドアが開き、ショーの主役かのように出てきたのはケヴィンだった。
弓で撃たれた生徒たちが次々とストレッチャーで運び出される。
エヴァが呆然と見つめる前で、ケヴィンは素直に連行された。
自宅に戻ると、庭には、何本もの弓で射抜かれ無残に死んでいる夫と娘の姿があった。

Source: https://www.youtube.com/watch?v=iHPubQIH5XY

それから2年、エヴァは安い借家に引っ越し、周囲の冷たい目に耐え嫌がらせを受けながらも、町を離れなかった。
町の旅行会社で事務職に就き、酒と薬に頼り細々と暮らしている。
何度も刑務所のケヴィンを訪ねるが、親子の関係に進展はなかった。
彼女は外壁にぶちまけられた赤いペンキを何か月もかけて丁寧に落とす。
部屋の壁を塗りベッドを整え、かつてと同じ息子の部屋を用意した。
棚には「ロビン・フッド」の本を置き、Tシャツに一枚ずつアイロンをかけてきちんと仕舞う。
事件からちょうど2年後の今日、エヴァは刑務所を訪れた。
「なぜ?」とエヴァが問うと、ケヴィンが答える。
「わかってるつもりだった。でも今は違う。」
エヴァは頷いて息子を抱きしめ、ケヴィンは何も言わず身を任せた。

概要

本作は第64回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品され、英国アカデミー賞でも作品賞、監督賞、主演女優賞にノミネートされるなど、高い評価を得ました。

原作はイギリスの女性作家ライオネル・シュライヴァーの小説「We Need to Talk About Kevin」(2003年)。
本作で2005年オレンジ賞を受賞しました。

監督は、スコットランド・グラスゴー出身の女性監督リン・ラムジー
「ビューティフル・デイ」(2017年)で第70回カンヌ国際映画祭脚本賞を受賞しています。

音楽はレディオヘッドジョニー・グリーンウッド
製作総指揮には、スティーブン・ソダーバーグ、主演のティルダ・スウィントンも参加しています。

キャストについて

主演ティルダ・スウィントンの繊細で心をえぐるような演技は絶賛され、多くの映画賞にノミネート、受賞を果たしました。
「フィクサー」(2007年)でアカデミー助演女優賞に輝いた実力派女優です。

ケヴィンを演じたエズラ・ミラーは、その中性的で掴みどころのない魅力で映画の美しさを増しています。
「ウォールフラワー」(2012年)でも注目を浴び、2018年からは「ファンタスティック・ビースト」シリーズに出演。

いいところのない父親役のジョン・C・ライリーは、味のあるベテラン俳優です。
なんとも残念な父親の存在感、二枚目俳優ではこうはいきません。

少年は残酷な弓を射る

Source: https://www.youtube.com/watch?v=iHPubQIH5XY

母親の目線

ケヴィンは衝撃的な事件を起こす物語の中心人物ですが、その心情は一切語られず、母親エヴァの目線のみで描かれます。
サイコパスな少年の物語として見るか、苦悩する母親の物語として見るかで、受け止め方も変わってくるでしょう。

違和感のある妊婦の集まり、出産シーンの医療器具に映った歪んだ顔。
望んでいない子どもの誕生は、エヴァにとってかくも恐ろしいものでした。

幼い我が子に向かって投げた無自覚な言葉、無関心な夫、妹の誕生。
16年間目を背け続け、すべてが上手くいかなかったらどうなるか、という見本のような悲劇を招きます。

子どもというものはたいてい気まぐれに素直になるかと思えば、平気で裏切る。
武器が玩具のスプレーガンだった頃にはまだ糸口があったかもしれません。
ケヴィンはソシオパスではありますが、残忍な事件もこれ見よがしにパンに唾を吐くのと同じ、ママの気を引きたい子どもです。
しかし母子の関係性を築けなかったエヴァの責務はあまりにも重く、「現在」になって、彼女は本当の母親としての贖罪を果たすことになるのです。

エヴァとケヴィンが互いに似ているという描写が度々あります。
紛れもない母子だということは、痛々しくもあり、皮肉であり残酷であり、そして救いにもなり得るかもしれません。

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