映画「ドッグマン」-暴力の闇に呑まれる心の不条理に迫る

小さな町で暮らす気の良い中年男が、抗えない暴力のメカニズムに呑み込まれていく。
誰しもが持つ複雑で矛盾した心情を巧みに表現しパルムドールに輝いたマルチェロ・フォンテの演技に注目。

Source: https://eiga.com/

 

 

公開:2018年

製作国:イタリア、フランス

上映時間:103分

監督:マッテオ・ガローネ

出演:

マルチェロ・フォンテ

エドアルド・ペッシェ ほか

 

 

 

※本記事にはネタバレ、結末が含まれています。

概要

本作はイタリア版アカデミー賞といわれるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で作品賞、監督賞など9部門で受賞するなど高い評価を得ました。
監督は、2008年の「ゴモラ」、2012年の「リアリティー」で2度のカンヌ国際映画祭の審査員特別グランプリを受賞したイタリアの鬼才マッテオ・ガローネ監督。

1980年代末にイタリアで実際にあった事件に着想を得た創作で、監督によれば、登場人物たちは実話に基づいているということ。
閉塞的なコミュニティで生まれる主従関係、逃れられない負の連鎖が生々しく描かれています。
また、作品の世界観を見事に表現した廃れた町のロケーションも素晴らしく、「ゴモラ」などでも使用した監督のお気に入りの場所だそうです。

映画「ドッグマン」ネタバレあらすじ

イタリアのさびれた海辺の町でマルチェロは「ドッグマン」という犬のトリミングサロンを営んでいた。
小柄で温和な中年男で、獰猛な大型犬も彼の前では気持ちよさそうに喉を鳴らす。
店は簡素だったが、トリミングコンテストでは入賞を果たす腕前だ。
古い集合住宅のような建物の一階にいくつか商店が入っている。
隣の金買い取り店のフランコと並びの食堂へ行って、町の男連中としばしサッカー談義。夜には皆でサッカーに興じた。
別れた妻との間のひとり娘とも頻繁に交流を持ち、一緒にダイビングを楽しんだりしている。
贅沢な暮らしではないが、この小さな町で彼は満足のいく生活を送っていた。

ある時、店に友人のシモーネがやってきて、マルチェロにコカインを催促する。
シモーネは気性が荒く粗暴な大男で、町中から煙たがられている厄介者だ。
痛ましいほどにヘラヘラと笑い、おどおどするマルチェロ。
その人の良さに付け込み、シモーネはしばしばコカインを買わせては代金を踏み倒している。
町の遊戯場ではゲーム機を壊して金を返せと暴れ、時には住民にまで危害を加え、手が付けられないシモーネを、町の男たちは人を雇って殺そうとまで相談していた。

Source: http://dogman-movie.jp/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

強盗の運転手として無理やり駆り出されても、マルチェロはシモーネに従うしかない。
分け前はほんの僅かしか貰えず、さらには盗みに入った家でチワワを冷凍庫に入れてきたと聞き、ひとり戻って犬を蘇生してやった。
しかし、そんなシモーネに服従することで不満が鬱積する反面、彼は一緒にドラッグをやってストリップバーで楽しんだり、撃たれたシモーネを助けてやったりするのだった。

そんな時、シモーネが店の壁を壊して隣のフランコの店に強盗に入る計画をマルチェロに持ちかけてくる。
マルチェロにとって、やっと手に入れたサロンと、馴染みの小さなコミュニティを失うわけにいかなかった。
頑なに拒否するが、しかし力ずくで脅され店の鍵を渡してしまう。
フランコの店は深夜のうちに盗みに入られ、シモーネの犯行と承知していた警察はマルチェロを連行し、執行猶予を条件に協力を求めた。
しかしマルチェロはそれを受け入れず、服役することとなった。

ドッグマン

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1年後、刑期を終えて町に戻ったマルチェロ。
人々は裏切り者と罵ったが、それでも彼は店で寝起きをしながらドッグホテルを始めた。
シモーネには声をかけても無視され、強盗の分け前を要求しても馬鹿にされ、あしらわれる始末。
腹いせにシモーネの新しいバイクを壊して逃げるが、翌日には店に押し入られ、したたか暴行を受けた。

数日後、マルチェロは上物のコカインでシモーネの気を引き、店で売人を襲ってコカインを盗もうと誘った。
シモーネに大型犬用のケージに入って隠れているよう促し、外から鍵をかけた。
「謝ってくれればいいんだ」と言うも、一切聞かずケージの中で大暴れするシモーネ。
恐ろしくなったマルチェロは、扉を破ろうとするところをバールで殴って気絶させた。
その後、トリミング用の台にシモーネを座らせ壁に取り付けられたチェーンで首を縛り、手足を拘束して、頭の傷の手当てをしてやる。
目を覚ましたシモーネに羽交い絞めにされるが、足元のペダルを踏むと台が下がり、シモーネはそのままチェーンで首を吊って死んだ。

マルチェロが海辺でシモーネの死体に火を点けると、深夜にもかかわらずサッカーの練習をする仲間たちの声が聞こえる。
彼はサッカー場へ走って行って、興奮気味に皆に呼びかけて叫んだ。「ついにやったぞ」と。
ところが気付いてくれないため、彼は死体の火を消してサッカー場へ運んでくる。
しかし、そこには誰もいなかった。
それから彼は死体を担いで歩き、店の前の広場に降ろすと、自分もそこに呆然と座り込んだ。
夜が明けていた。

ドッグマン

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キャスト&ドッグ

マルチェロ・フォンテ
俳優としては全く無名だった彼は、本作で主演に抜擢され、第71回カンヌ国際映画祭主演男優賞を受賞しました。
監督によると、バスター・キートンや往年の無声映画の俳優を思わせるところがあるとのこと。
表情で物語る繊細な演技力と、滑稽さと悲哀を併せ持つ稀有な俳優といえるでしょう。

エドアルド・ペッシェ
2015年の「神様の思し召し」で、マーニャ・グレーチャ映画祭最優秀男優賞を受賞。
「神様の思し召し」ではとてもコミカルでチャーミングな演技を見せていますが、本作では別人のように肉体改造をして、支配的な暴力男を演じています。
本作で第64回ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞助演男優賞を受賞しました。

犬たち
本作では、小型犬から大型犬まで多くの犬が微笑ましい姿や達者な演技を披露しています。
冷凍され息を吹き返すという名演技を見せたチワワのジョイちゃんが、第71回カンヌ国際映画祭パルム・ドッグ賞を受賞しました!

ドッグマン

Source: http://dogman-movie.jp/

まとめ

コミュニティの中でうまくやりたい、嫌われたくない。
その一方で、権力への憧れや、優位に立ちたいという気持ちもある。
それは決して特殊ではなく、平凡な人間であれば誰もが大なり小なり抱くような感情です。
しかし絶対的な支配者との主従関係によって、ほんの小さな綻びから、人の心の「不条理」の闇へと繋がってしまう。
マルチェロの物語は、いつ誰の身に起こっても不思議ではないのです。

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