映画「孤独なふりした世界で」ーエル・ファニングとピーター・ディンクレイジが描くディストピア

終末を迎えた世界で、孤独を愛する男の前に現れたひとりの少女。ちぐはぐな交流とやがて生まれる絆を描いた異色のSＦ作品。本当の孤独とはなにか…。

 

 

公開：2018年

製作国：アメリカ

上映時間：93分

監督：リード・モラーノ

出演：ピーター・ディンクレイジ

エル・ファニング

ポール・ジアマッティ

シャルロット・ゲンズブール　ほか

 

 

 

※本記事にはネタバレ、結末が含まれています。

映画「孤独なふりした世界で」ネタバレあらすじ

「あの時」、人類のほとんどが突然死んでしまった。
ひとり生き残った小人症の男デルは、誰もいない静まり返った町で家々を周っては片付けをしていた。
家中を掃除し、電池などの必需品を回収して、遺体があれば埋葬する。
手際よく作業を終えると、飾られている家族写真を持ち帰った。
かつて勤め先であった図書館で寝起きし、本を整理したり湖で釣りをして、ワインを飲み映画を見るのが日課だ。

ある日、彼は事故を起こして怪我をした若い女性グレースを助ける。
生き残った者同士であったが、ひとり平穏な日常を築いていたデルは、手当てをしてやると彼女を追い出した。
しかしグレースは家々の片付けを手伝いたいと、拒まれてもお構いなしに付きまとう。
寡黙なデルに対し、グレースは騒がしく質問攻めだ。
「あの時」のことを聞かれると、デルは、「この町に1600人いた時の方が孤独だった」と言った。

デルが仕方なくグレースを受け入れ、2人の奇妙な交流が始まった。
黙々と埋葬をするデルに、「何か言わないの？生きていたのよ」とグレースは問うが、遺体は山ほどあり、デルにとっては家の掃除と同様仕事に過ぎない。
自分の生活に入り込むグレースにペースを乱されながらも、彼は日々の作業をし、住民のリストや大量の家族写真をまとめていた。
ある時、グレースは一軒の家から生き残っていた一匹の犬を連れて帰り可愛がるが、デルは快く思わない。
図書館の本を破いてしまったことでデルはついに犬を外へ放ってしまった。
グレースは、町の住人もまるで図書館の資料のように事務的に片づけるデルを批判し、不満をぶつける。
両親のこと、その死に際、「あの時」自分は男の子と遊んでいたこと。
「あなたには誰もいない。私にはみんながいた。」

翌日、デルはグレースが寝泊まりしている家を訪ね、手伝いを頼んだ。
ビニルハウスでの野菜作りをしたり、無線で連絡を取ったりと交流を深めていく。
遺体を埋葬する時には、「人に会うと10秒息を止める」というグレースの慣習に従って2人で息を止めた。

グレースがデルの作った町の地図にない一軒の家を見つける。
そこはデルの家だった。
デルには「あの時」の光景が蘇る。
彼は片付けを拒むがやがて承諾し、ダイニングの椅子で死んでいた母親の遺体をいつものように墓穴に放り、10秒息を止めた。

2人は心を寄せ合うようになり親密さを増していく。
しかし、グレースは自身の素性を明かせず苦悩していた。
朝、デルがグレースのベッドで目覚めると、隣にグレースはいない。
グレースの両親を名乗る男女が彼女を迎えに来ていたのだ。
彼らは、生き残っている人は何千人もいると言い、何不自由なく暮らしている様子だ。
そこでは優秀な医者が集まっていて、最先端の技術で人間の複雑な感情を抑制すると言い、デルに一緒に来るよう誘う。
グレースは彼らに無理やり家族にさせられたが逃げ出したと打ち明け、デルに助けを求めるが、デルは受け入れることができず彼女を突き放した。

グレースは、両親という男女に連れられて去って行った。
デルはひとり以前と同じ生活に戻るが、孤独に苛まれるようになる。
保管していた住民の写真に目を通すと、それは記録であるとともに紛れもない思い出だと実感する。
耐えかねた彼は、グレースのもとへ向かい車を走らせた。
「あの時」突然起こった何かによって主を失った多数の車が道路を塞いでいた。
車を乗り継ぎ辿り着いた先は、明かりがたくさん灯り、小ぎれいな家が立ち並ぶ住宅街。
深夜に銃を持ってグレースの家に忍び込むと、彼女は医療機器や多数のコードが頭部に繋がれ、何かの処置が施されていた。
目を覚ましたグレースはデルに背を向け、「犬は戻ったの？」と聞く。
デルは、受け入れられなかった自分を詫びるのだった。
2人は装置を外し、逃げようとするが父親に見つかってしまう。
父親は、悲しみや怒り、罪悪感など未来を生きるために不要な感情を切り離す処置をしていると言った。
過去を思い出す必要はないと説くが、その言葉を遮るようにグレースが父親を撃った。

朝になりデルとグレースは車に乗り込む。
処置を施された人々が何事もなかったかのように平和に暮らしている町を後に、オープンカーの幌を上げて走り出した。

ピーター・ディンクレイジとエル・ファニングが演じるディストピア

人類がほぼ滅亡してしまったディストピアを描いたSF作品ですが、そこに至る何が？どうして？は明かされず、気になる点はバッサリ切り捨てる潔さ。
天変地異もパンデミックも描かれないので派手さもインパクトもなく、セリフも少なく、終始淡々とした静かなトーンですが、その分、登場人物の心の機微を丁寧に描き出しています。
2018年サンダンス映画祭で審査員賞を受賞しました。

監督のリード・モラーノは、撮影からキャリアをスタートし、サンダンス映画祭審査員大賞を受賞した「フローズン・リバー」（2008年）や、ビヨンセのミュージックビデオなど、多くの作品で撮影監督として活躍。
本作でも撮影を手掛けています。陰影のバランスが美しい映像に注目してみてください。
映画監督としては、本作は「ミッシング・サン」（2015年）に続く長編監督作品2作目。
2020年にはブレイク・ライヴリー、ジュード・ロウ出演の「リズム・セクション」でメガホンを取っています。

デルを演じたピーター・ディンクレイジは、小人症という体格を活かして数多くの映画やテレビシリーズで活躍しその才能を評価されています。
「ゲーム・オブ・スローンズ」ではエミー賞助演男優賞、ゴールデングローブ賞助演男優賞を受賞。
本作では製作も手掛け、彼の繊細な演技力が十二分に発揮されています。

もはや大女優の風格のエル・ファニングは、本作でも実に魅力的。
終末世界にありながら、自由奔放な雰囲気やハイセンスなファッションで、本作のスタイリッシュな世界観を作り上げています。

終末物で少ない登場人物ながら、ニセ両親にはポール・ジアマッティ、シャルロット・ゲンズブールと豪華キャストです。

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※2021年11月の情報です。最新の配信状況は各サイトにてご確認ください。